2016年8月30日 | ~ | 2016年12月18日 |
20世紀初頭に起こった「キュビスム」は、あらゆる意味で後世に大きな影響を与えました。線と面で対象を捉え直すこの革新的な手法により、現実の空間と絵画空間との関係に変化が起こったのです。その後、芸術家達は、現実の再現や物語の伝達媒体としてではない、自律した純粋な芸術のあり方を模索します。例えばフランク・ステラは、黒のストライプを反復させた禁欲的な作品を発表し、イリュージョンではない芸術の有り様を呈示しました。「グリッド」は、こうした探求の中で見出された重要な構造です。格子状に表現されるグリッドは、芸術は芸術でしかないというアートのありかたを、端的に、そして重層的に示すことができる構造でした。 一口に「グリッド」と言っても、その表現内容は様々です。アド・ラインハートはこのグリッドに宗教的なシンボル、十字架を重ねます。桑山忠明の作品において、グリッドは描かれたものではなく、4つのキャンバスを結合する金属のクロム・ストリップで表現されます。山田正亮の作品はグリッドを反復した単純な作品のように見えますが、よく見るとそこには十字や大きさの違う長方形、正方形が緊張感あるバランスで収まっています。一圓達夫は木版画で格子状のパターンを表現しますが、ぼかしによるグラデーションを入れることで独自の絵画空間を展開しようと試みます。ソル・ルウィットの立体作品は、ひとつの作品がどのような法則・構造で成立しているのかを私たちに示してくれます。 もう少し広い視点で見てみると、グリッドは抽象芸術にのみ応用される手法ではありません。0〜9の数字をランダムに配置したジャスパー・ジョーンズの画面、ジョゼフ・コーネルのコンパートメント・ボックスのほか、砂に印刷した1ドル札の反復からなる柳幸典の作品にもグリッドが応用されています。オノサト・トシノブは「円」を自身の重要なモチーフだと考え作品に幾度となく登場させた作家ですが、その「円」も大小さまざまなグリッドで区切られます。 1つの芸術的起源と見なされ、その普遍的な構造ゆえ国を越えて多くの作家が取り組んだグリッド。それは見る者を拒絶しているようであり、一方では深い造形世界への没入を歓迎しているようでもあります。多様なグリッドが生み出す世界を、どうぞお楽しみください。
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●出品作品リスト
作者名 | タイトル | 制作年 | 素材・技法 | |
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パブロ・ピカソ | テーブル | 1910 | エッチング・紙 | |
パブロ・ピカソ | 長椅子のレオニー嬢 | 1910 | エッチング・紙 | |
パブロ・ピカソ | 犬をつれた人 | 1914 | エッチング・紙 | |
ルイ・マルクーシ | カウンター | 1921 | エッチング・紙 | |
カジミール・マレーヴィチ | 算術 | 1913 | リトグラフ・紙 | |
カジミール・マレーヴィチ | 飛行橡と鉄道でのひとりの人間の同時的な死 | 1913 | リトグラフ・紙 | |
ジョルジュ・ブラック | 静物Ⅰ | 1911 | エッチング・紙 | |
アド・ラインハート | トリプティック | 1960 | 油彩・画布 | |
ソル・ルウィット | ストラクチャー(正方形として1,2,3,4,5) | 1978-80 | 木製、白塗り | |
桑山 忠明 | 無題 | 1965 | アクリル・画布 | |
桑山 忠明 | 無題 | 1975 | メタリック・ペイント・画布 | |
山田 正亮 | Work D-274 | 1978 | 油彩・画布 | |
山田 正亮 | Work D-305 | 1978 | 油彩・画布 | |
山田 正亮 | Work Cp-369 | 1966 | パステル・紙 | |
山田 正亮 | Work Ep-179 | 1981 | オイルパステル・紙 | |
山田 正亮 | Work Ep-309 | 1983 | オイルパステル・紙 | |
山田 正亮 | Work Ep-448 | 1984 | 水彩・紙 | |
フランク・ステラ | ブラック・シリーズⅡ | 1967 | リトグラフ・紙 | |
ジョゼフ・コーネル | 無題 | 1950代 | 箱状のミクストメディア | |
ジャスパー・ジョーンズ | ナンバーズ | 1967 | リトグラフ・紙 | |
一圓 達夫 | Work 10 | 1978 | 木版・紙 | |
柳 幸典 | Study for American Art -192 One-Dollar Bills- | 2000 | 蟻、着色した砂、プラスティックボックス、プラスティックチューブ、プラスティックパイプ | |
オノサト・トシノブ | Silk−49 | 1972 | シルクスクリーン・紙 | |
オノサト・トシノブ | Silk−57 | 1973 | シルクスクリーン・紙 | |
オノサト・トシノブ | Silk−91 | 1977 | シルクスクリーン・紙 | |
オノサト・トシノブ | Silk−64 | 1974 | シルクスクリーン・紙 | |
オノサト・トシノブ | Silk−65 | 1975 | シルクスクリーン・紙 | |
オノサト・トシノブ | 無題 | 1968 | 油彩・カンヴァス |