2016年2月6日 | ~ | 2016年3月27日 |
コラージュとは、切手や新聞紙、紐、時には廃棄物といった通常の絵画制作の素材とは異なるものを用いて画面を構成したり、本来的な文脈から意味をはがすことで新しい世界を再構築する技法のことです。このような制作方法を意識的に行ったのは、パブロ・ピカソを始めとするキュビスムの画家達でした。多角的な視点からものを捉え、画面の上で再構成するキュビスムの実験を繰り返していた彼らは、その作風があまりにも抽象的になりすぎたことに危惧を抱きます。そのため、「切手」や「新聞紙」など、私達が日常の中で使っているものを画面に貼付け、絵を描く変わりにその物質自身で語らせることによって、作品に具体的なイメージを持たせようとしました。 日常にある、ありふれたものを芸術作品として見出す視点は、マルセル・デュシャンによって押し進められます。優れた芸術家の目によりその美しさや存在感が見出されるという視点は、「もの」本来の文脈から意味や役割を解放し、芸術の新しい地平を開拓します。クルト・シュヴィッタースによるさまざまな廃材を組み合わせたコラージュ作品、「メルツ」は、こうした視点と繋がるものです。シュルレアリスムの作家たちにもコラージュは好んで使われる手法であり、中でもジョゼフ・コーネルは古書店や骨董店で見つけてきた素材や、彼が愛したさまざまなモチーフを組み合わせて、箱の中に小さな宇宙をつくりだしました。画面に別の紙を貼付ける、という制作手法は、ピカソと同時代に活躍した画家アンリ・マチスも行っていた手法ですが、新聞紙などの日用品を画面に持ち込む事はありませんでした。むしろそれは《オセアニア、空》のように、タペストリーや挿絵本などの複製作品のプロットという役割も持っていた点に注目すべきでしょう。 戦後のアメリカで活躍した作家たちも、さまざまなコラージュ作品を制作します。ロバート・ラウシェンバーグは、ロサンゼルス・タイムス日曜版のイメージを組み合わせた《ミュール》のように、新聞紙や雑誌、自分で撮影した写真等を組み合わせ、当時の社会の様相を想起させるような渾沌とした世界をつくり出します。ラウシェンバーグのパートナーであるジャスパー・ジョーンズの《NO》をじっと見ると、「NO」という文字が上から貼られた紙であることがわかるでしょう。《Déreau no.37》は、音楽家のジョン・ケージが思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローのドローイングを部分的に使用しながら、古代中国の占いである「易経」を用いて画面構成をしたものです。これは楽譜になっており、ソローの作品が音楽というかたちで再構成されています。ポップ・アートの作家、ジェームズ・ローゼンクイストは、ベトナム戦争時に利用された戦闘機「F-111」や大きなタイヤ、水爆のきのこ雲といったイメージをちりばめ、作品が制作された当時の渾沌としながらも奇妙にも明るいイメージをつくり出しています。また、同じくポップ・アートの作家であるトム・ウェッセルマンは、西洋美術史上のさまざまな絵画やモチーフを連想させる要素を画面に切り貼りしながら、1960年代のアメリカの中産階級の暮らしを表現しました。その画面からは、どこかチープでうすっぺらな印象も受けるのではないでしょうか。 日本の作家たちにとっても、コラージュはなじみ深い手法であり続けています。篠原有司男が1970年から制作を始めるオートバイ彫刻シリーズは、彼が住んでいたニューヨークの街でひろった廃材を組み合わせてつくったアッサンブラージュ作品です。アメリカン・ニューシネマやニューヨークの改造バイクに影響を受けたというこの作品からは、ミニマリズムを好まなかった篠原の爆発するようなエネルギーも感じさせます。埼玉県在住の出店久夫は、日常の景色、まさに「私風景」を写真に撮り、それらの映像を巧みに組み合わせて制作されたフォト・コラージュ作品です。上下左右に反転し増殖するこの摩訶不思議な世界が、実は自分たちのありふれた日常から成るという事実を、出店の作品は教えてくれます。濱田弘明の《Untitled》にも、作家が取った写真が部分的に使われています。階段や窓、観葉植物などが黒のインクでうっすらと印刷された画面は、現実世界の影のようでもあり、はかない記憶のようでもあります。 このように、本展では「コラージュ」という概念・手法を広くとり、さまざまな作品をご紹介しています。ぜひじっくりと、「コラージュの世界」をご堪能ください。 |
●出品作品リスト
作者名 | タイトル | 制作年 | 素材・技法 |
---|---|---|---|
ロバート・ラウシェンバーグ | カードバード・ドア | 1971 | 段ボール、木 |
ジョゼフ・コーネル | 陽の出と陽の入りの時刻、昼と夜の長さを測る目盛り尺(アナレマ) | 1948-50 | 箱状のミクストメディア |
ジョゼフ・コーネル | 無題 | 1950年代 | 箱状のミクストメディア |
ジョゼフ・コーネル | シャボン玉セット(宇宙の物体)月の虹 | 1950年代 | 箱状のミクストメディア |
クルト・シュヴィッタース | gc | 1924 | コラージュ |
ジョン・ケージ | Dereau No.37 | 1982 | エッチング・紙 |
濱田弘明 | Untitled | 1989 | シルクスクリーン、アクリル・パネル |
アンリ・マチス | オセアニア 空 | 1946 | シルクスクリーン・リンネル |
パブロ・ピカソ | パピエ・コレ1910-1914(10点組) | 1966 | リトグラフ・紙 |
・ジャスパー・ジョーンズ | No | 1969 | リトグラフ・紙 |
篠原有司男 | モーターサイクル・戦士 | 1984 | ミクストメディア |
出店久夫 | 私風景 ’89 Amarillo y Rojo | 1989 | ミクストメディア |
出店久夫 | 私風景 ’89 One×Two×Four | 1989 | ミクストメディア |
ジェームズ・ローゼンクイスト | F-111 | 1974 | リトグラフ、シルクスクリーン・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | ブレイク | 1969 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | プライズ | 1969 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | ホーン | 1969 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | 無題 | 1972 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | テスト・ストーン2 | 1967 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | アクシデント | 1963 | リトグラフ・紙 |
ロバート・ラウシェンバーグ | ミュール | 1974 | トランスファー・コラージュ |
トム・ウェッセルマン | グレート・アメリカン・ヌード#6 | 1961 | ミクストメディア、コラージュ・ボード |
マルセル・デュシャン | ヴァリーズ | 1955-68 | ミクストメディア |