2015年9月1日 | ~ | 2015年12月13日 |
常設展示室2では、戦後日本とアメリカを中心とした美術作品を展示替えを行いながら紹介しています。今回は『戦後から現代へ』と題し、第二次大戦直後に現れて全世界を席巻した「戦後の現代美術」と、1990年代以降のいわゆる「同時代(コンテンポラリー)の現代美術」を並列することにより、両者の“違い”と“連続性”を検証いたします。 現代美術は20世紀、とりわけ第二次世界大戦以降に出現した、素材や表現法などにおいて従来の「近代美術」とは一線を画する新しい傾向の美術を指す言葉です。一般的に「近代美術」は西欧における19世紀の美術、「現代美術」は20世紀の美術を指す言葉として、まるで時代区分のように使われています。けれども「近代美術」の「近代 Modern」がもともと「新しい時代、現代」を意味する言葉であり、現代美術の登場によって過去に押しやられてしまった言葉であるのと同様に、戦後まもない時代に生まれた「現代美術」もまた、いまや時代の波によって過去の歴史の中へ組み込まれつつあるのです。とりわけ1990年代以降に現れた日本の同時代の作家たちの作品は、クラシックな「戦後の現代美術」とは表現の方向性、歴史認識のあり方、現代文化の中での立ち位置などにおいて、もはや一線を画するものとなっているのです。 「戦後の現代美術」は19世紀の近代美術と同じ「芸術の純化」という方向性を目指し、その方法論を継承しつつも乗り越えようとする、西洋近代の価値観の延長線上に生まれたものです。特に、様式は進歩するものだという進歩史観の影響下に、作品の中から不要な要素を排除しシンプルで純粋な表現を生み出そうとする力と、“芸術は人間(の身体)によって生み出されるもの”という桎梏から解放されようとする力の、ふたつの強烈な力に支配されていました。1950年代抽象表現主義を代表するロスコの作品から、60年代半ばのミニマル・アートを代表するステラの作品へと向かう流れには前者の、また手ではなく足で描くことによって作品を意識のコントロールから解き放とうとした白髪一雄や、単純な行為の繰り返しを通して素材そのものに語らせようとした李禹煥の作品などには後者の力がよく現れています。その一方で、ウォーホルや高松次郎の作品には、戦後の人間が置かれた新しい環境と、その中における戦後の人間の心的状況とがよく現れています。 一方、冷戦体制の崩壊や、学問の世界における「モダニズム批判」など、近代の“進歩史観の枠組み”が1980年代にほぼ崩壊したことで、1990年代以降の「同時代の現代美術」はより自由な立場から、過去の歴史(の産物)を作品の素材として扱えるようになりました。森村泰昌、山口晃、柳幸典、福田美蘭らはいずれも過去の美術作品を引用しながら、それを自分独自の表現へと置き換えています。また赤塚祐二、岡田修二、伊庭靖子らはいずれも「絵画」というクラシックな形式にこだわりつつ、自己と外界の問題、人間の視覚の問題などに鋭く切り込み、現代人の感覚にマッチした作品を生み出しています。いずれの作家たちも「戦後の現代美術」の枠組を超越した地点にありながら、一方でそれらに敬意を払いつつ、もはや戦後ではない「現代」という時代にふさわしい表現とは一体何かを、それぞれの立場で模索しているのです。 |
●出品作品リスト
作者名 | タイトル | 制作年 | 素材・技法 | 備考 |
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《戦後のアメリカと日本の現代美術》 |
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マーク・ロスコ | ナンバー28 | 1962年 | 油彩・画布 | |
アンディ・ウォーホル | フラワーズ | 1970年 | シルクスクリーン・紙、10点 | |
ジャスパー・ジョーンズ | ノー | 1969年 | リトグラフ・紙・コラージュ | |
フランク・ステラ | バルパライソ・フレッシュ | 1964年 | メタリックペイント・画布 | |
高松 次郎 | 影(母子) | 1964年 | 油彩・板 | |
白髪 一雄 | 地猛星神火将 | 1960年 | 油彩・画布 | |
李 禹煥 | 点より | 1976年 | 岩彩・画布 | |
《同時代の日本の現代美術》 |
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西村 陽平 | 時間と記憶 | 1996年 | ガラスケース、ガラス瓶、本、雑誌 | |
岡田 修二 | Take#11 | 1998年 | 油彩・画布 | |
山口 晃 | 厩圖2004 | 2004年 | 水彩、油彩・画布 | |
森村 泰昌 | 石榴を持つ肖像 | 1991年 | カラー写真にカンヴァス加工 | |
福田 美蘭 | 清水卯一《鉄耀掛分偏壷》を 収めておく二重箱と梱包物 | 2004年 | 絹本着色、軸装 | 展示期間:9月1日(火)─10月25日(日) |
清水 卯一 | 鉄耀掛分扁壷 | 1991年 | 陶器 | ※参考展示作品 |
福田 美蘭 | 志村ふくみ《聖堂》を着る | 2004年 | アクリル絵具・パネル | 展示期間:10月27日(火)─12月13日(日) |
柳 幸典 | Study for American Art -192 One-Dollar Bills- | 2000年 | 蟻、着色した砂、プラスティックボックス、プラスティックチューブ、プラスティックパイプ 6点組 | |
赤塚 祐二 | Untitled 249910 | 1999年 | 油彩・カンヴァス | 寺田小太郎氏寄贈 |
伊庭 靖子 | Untitled | 2007年 | 油彩・カンヴァス | 美術館にアートを贈る会寄贈 |
伊庭 靖子 | Untitled | 2007年 | 油彩・カンヴァス | 美術館にアートを贈る会寄贈 |
伊庭 靖子 | Untitled | 2007年 | 油彩・カンヴァス | 美術館にアートを贈る会寄贈 |