2014年4月1日 | ~ | 2014年6月29日 |
伝統的な技法から斬新な造形、奇想天外な設置法まで、現代美術が生んだユニークな立体作品群に焦点を当てて展示します。
なお平成26(2014)年4月1日(火)から常設展示観覧料が改定されますのでご注意ください。
19世紀までの近代彫刻の大成者がオーギュスト・ロダンなら、20世紀の現代彫刻の創始者はルーマニア出身のコンスタンティン・ブランクーシであり、その精神を受け継いだ巨匠は一時期ブランクーシの弟子でもあった、日系アメリカ人のイサム・ノグチだと言えましょう。「幼年時代」は素材である香川県庵治産みかげ石の持ち味を存分に生かした、シンプルで温かみのある作品です。このように現代彫刻には「素材感」を前面に押し出した作品が多く、例えば滋賀県在住の陶芸家・星野曉による、土の板を鷲掴みにして指と土が格闘した痕跡を見せる「背後の輪郭IV」や、重力で自然にたわむフェルト布を素材にしたロバート・モリスの「無題」も、素材の感触が作品のポイントとなっています。
逆に、琵琶湖をテーマにしたミニチュアの環境彫刻を作りつづけている福岡道雄の「釣りをする2」は、素材感を背景に退けて、仮想的な風景のイメージを追求したものです。一方、絵具を染み込ませた海綿で海底や宇宙を連想させるイヴ・クラインの神秘的な作品「RE42」や、粗い麻布を樹脂で固めて、頭部と両腕が無い不気味な等身大の人体像をずらりと並べるマグダレーナ・アバカノヴィッチの「群衆IV」などは「素材感」と「イメージ」を見事に両立させた作品と言えるでしょう。
現代彫刻のもうひとつの特質に「周囲の環境の取り込み」があります。滋賀県出身で環境をテーマにした抽象的な作品を作り続けている深田充夫の作品「滃-5」では、ピカピカに磨き上げた作品の表面に映る周囲の風景も作品の一部として機能しています。同一の型からとった等身大の人体像を10体並べた今井祝雄の「ヴォワイヤン」(見る人、の意)も、見る─見られるの関係によって結果的に観客を含めた周囲の空間を取り込んでしまう作品です。
20世紀の立体造形を語る上で、欠かすことができないもうひとつの概念が、既製品や自然物、廃品などを巧みに利用して作る《オブジェ(物体の意)》です。オブジェという概念の創始者のひとりとされるマルセル・デュシャンの「ヴァリーズ」(旅行かばん)は、彼の過去作品のミニチュアが多数収められたカタログのような作品です。ジョゼフ・コーネルが古い木箱に彼の思い入れのある品々を小宇宙のように収めた「シャボン玉セット」や、ロバート・ラウシェンバーグが既製品のドアに段ボールを貼り付けて鳥の姿を模したオブジェにした「カードバード・ドア」、アルマンがヴァイオリンをケースごと輪切りにしてコンクリート詰めにした「ビショップの悲劇」などは、20世紀のオブジェ芸術の代表的なものと言えるでしょう。一方で、一見既製品の冷蔵庫か洋服を掛けたハンガーのように見えて実は手作りの絵画であるという金村仁の「絵になる冷蔵庫」や、アンディ・ウォーホルの名作「192枚の1ドル紙幣」を蟻の巣観察箱と融合させた柳幸典の作品は、オブジェのあり方を逆手に取ったユニークな作品です。
本展ではこれらの他、ドナルド・ジャッド、ソル・ルウィットらミニマル・アート(最小限芸術)の作品や、ジョゼフ・コスース、西村陽平、若林奮らによるコンセプチュアル・アート(概念芸術)の作品など、現代の立体造形の多様な状況を示す作品を多数展示しています。
●出品作品リスト
作者名 | タイトル | 制作年 | 素材・技法 |
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立体とオブジェ |
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イサム・ノグチ | 幼年時代 | 1971年 | 庵治みかげ石 |
深田充夫 | 滃(おう)ー5 | 2002年 | ステンレススティール |
福岡 道雄 | 釣りをする 2 | 1982年 | FRP、木 |
星野 暁 | 背後の輪郭Ⅳ | 1990年 | 黒陶 |
マルセル・デュシャン | ヴァリーズ | 1955−68年 | ミクストメディア |
ジョゼフ・コーネル | シャボン玉セット(月の虹) 宇宙の物体 | 1950年代 | 箱状のミクストメディア |
イーヴ・クライン | RE42 | 1971年 | スポンジ、小石、染料、合成樹脂・木 |
アルマン | ビショップの悲劇 | 1974年 | 切断されたバイオリン、コンクリートを埋め込んだ箱 |
クレス・オルデンバーグ | ミニチュア・ソフトドラム・セット | 1969年 | シルクスクリーン・画布、ペイントを塗られた木とロープ |
ロバート・ラウシェンバーグ | カードバード・ドア | 1971年 | 段ボール |
マグダレーナ・アバカノヴィッチ | 群衆Ⅳ(30体) | 1989-90年 | 黄麻布、樹皮(30体組) |
今井祝雄 | ヴォワイヤン(10体) | 1994(-2010)年 | ウレタン塗装・強化プラスティック(10体組) |
若林 奮 | ゆりの樹による集中的な作業・ゆりの樹の一枝 | 1983-84年 | 木、紙、銅(2点組) |
北辻 良央 | 桜・贈物 | 1989年 | (桜)鉄、亜鉛、真鍮 (額)ドロ-イング、ミクストメディア |
金村 仁 | 絵になる冷蔵庫 | 1993年 | パネルキャンヴァスにラッカー塗料、鉄,真鍮 |
西村 陽平 | 時間と記憶 | 1996年 | ガラスケース、ガラス瓶、本、雑誌 |
柳 幸典 | Study for American Art – 192 One-Doller Bills | 2000年 | 蟻、着色した砂、プラスティックボックス、プラスティックチューブ、プラスティックパイプ |
ロバート・モリス | 無題 | 1972年 | フェルト |
ドナルド・ジャド | 無題 | 1977年 | アルミニウム、鉄 |
ソル・ルウィット | ストラクチャー(正方形として1,2,3,4,5) | 1978-80年 | 木製、白塗り |
ジョゼフ・コスース | 1つと3つのシャベル | 1965年 | 木、鉄、写真 |