平成23年度 友の会 海外美術鑑賞旅行記

 

平成23年度の海外美術鑑賞旅行は、イタリアへの旅を実施しました。以前に2度開催が中止となったこともあり、会員の皆さまから“ぜひに”との声もあって決定したイタリア旅行。当館で23年の春に開催した「珠玉のヨーロッパ絵画展 バロックから近代へ」にヒントを得て、バロック絵画・彫刻を中心にめぐる旅となりました。

ご参加の和田明さまより紀行文をお寄せいただきましたのでご紹介します。

 

イタリア・アートツアー  友の会会員 和田 明

 

今回は10月17日から24日までの、ミラノからボローニアへそしてシエナを経てローマへの7日間の旅。2日目のミラノではまずサンタマリア・デレ・グラツェ教会でダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を見た。画集で見る修復前の壁画は痛みが激しく、至るところに顔料の剥落があり、左の背景などは薄黒く汚れて輪郭すら定かでなかったが、20年懸けた修復作業で見違えるようになっていた。キリストと弟子たちの決定的な瞬間の緊迫した動きが落ち着いた色調で描かれている。単なる修復を超えた見事な出来映えだ。ブレラ美術館ではマンテーニャの「死せるキリスト」を見た。十字架から下ろされたキリストを足の側から描いたユニークな作品。圧縮したような遠近法が釘の跡を痛々しく見せている。市立スフォルツァ美術館にミケランジェロの未完の絶作「ピエタ」があった。ローマ・サンピエトロ大聖堂の「ピエタ」は彼の24歳の作品で、聖母がキリストを膝に抱きかかえた流麗な像だが、この絶作はキリストがあたかもマリアを背負うようなポーズをとっている。ガイドの木村さんはマリアの胎内に戻ろうとしているようだと解説した。右脇には途中で制作を中断したらしき腕がそのまま残されていて、死期迫る中で、完成目指して試行錯誤したミケランジェロが目に見えるようだ。ミラノはバロックの天才、カラヴァッジョの生れ故郷でもある。

 

3日目はカラッチ一族の本拠地ボローニアへ向かった。途中カラヴァッジョが少年時代を過ごしたカラヴァッジョ村に立ち寄る。イタリア・バロックの絵画は大部分、アンニーバレ率いるカラッチ一族によって制作された。サン・グレゴリオ大聖堂にはアンニーバレの代表作「キリストの洗礼」があった。彼を真横から描いた小さな自画像もあって、その精悍な容貌が、一族総出で描いた大規模な天井画よりも強く印象に残った。ボローニアは大学の街でもある。ボローニア大学はヨーロッパ最古の総合大学で1088年創立。街を歩くと、どの道にも覆いかぶさるように二階の部屋が続いている。これは当時学生の数が増えて収容しきれなくなったために増設された寄宿舎らしく、それが今でも歴史的建造物(ポルティコという)として保存されている。

 

4日目、シエナに向かう。坂の多い落ち着いた街並みは、車の往来さえなければ中世にタイムスリップしたような感じ。プッブリコ宮、国立絵画館、聖マリア教会と、中世後期を中心の宗教画をたっぷり見た。シエナからローマへバスで田園を走る。何回かイタリア新幹線とすれ違う。小高い丘の上にオルビエトの街の家並みが見える。途中激しい雨だったが、幸い移動中に上がってしまった。

 

5、6、7日目はローマ。内山さんの解説。まず世界最古の美術館といわれるカピトリーノ美術館。ミケランジェロが設計したという広い前庭に、巨大な彫像が立ち並び、ローマ市街を見下ろしている。館内に、ローマ建国伝説のロムルスとレムスの双生児が雌狼の乳を吸っている彫刻が置かれている。ローマの人達はこの話が大好きと見えて、このあと同じ図柄の彫刻をいくつも目にする。ドーリア・パンフィーリ美術館ではヴェラスケス作の、横目でこちらを睨むパンフィーリ家のトップ「法王イノセント十世」の肖像が印象的だ。そして、サンルイージ・フランチェージ教会でカラヴァッジョの代表作、聖マタイの三部作を見た。その際立った明暗の鋭さと劇的構成は、文句なしに見るものを惹きつける。サンタマリア・デル・ポポロ寺院ではイタリア・バロックの極めつけともいえる3作品、中央にアンニーバレ・カラッチの「聖母被昇天」、左右にカラヴァッジョの「聖ペテロの磔刑」、「聖パウロの改宗」を見た。ここではイタリア・バロックを代表する二人の違い、特徴がよくわかる。カトリック教会の意向に沿って、どちらかというと優等生的に膨大な数の宗教画を制作し続けたカラッチ一族と、何度も何度も教会から拒否され、修正を求められた作品が、今に至るまで見る者の心をつかんで離さないカラヴァッジョと。彼にはもうちょっとまともに生きて、もっと描いておいてほしかったと思ってしまう。ローマ国立博物館は古代ローマ時代の遺跡を建物の一部として取り込んだ異色の博物館である。その中に古代ローマ時代泥の中に埋没し、最近発掘された家屋が展示されていた。その壁に描かれた草花の描法が極めて写実的で、中世を飛び越えていきなりルネッサンスにつながるような驚くべき新鮮さを持っている。逆にいえば、これが正しければ中世という時代が絵画技術としていかに不毛な時代であったかを示していることになる。

 

6日目はいよいよヴァチカン美術館、これは複数の施設の総称である。そのうちの最たるものがシスティーナ礼拝堂。ミケランジェロの天井画「天地創造」と壁画「最後の審判」を首が痛くなるが我慢して見続ける。自分をむくろのように描いた彼の心意気に惹かれる。バロックと違って、理想化された人物像がものすごい力で真正面から迫ってくる。ラファエロの間では壮大な歴史画「アテネの学堂」を見た。ミラノのアンブロジアーナ美術館でこれと同寸大の下絵を見ていたので、その比較ができて興味深かった。次にボルゲーゼ美術館を訪れた。イタリア・バロックの彫刻の巨匠ベルニーニの傑作「アポロンとダフネ」と「プロセルビーナの略奪」があった。心和む流麗な作品。テイツイアーノの「聖愛と俗愛」も展示されていた。国立近代美術館はどういうことか十分整備されていなかった。さしづめマリノ・マリーニの「人と馬」をゆっくり見たいと思っていたが、残念ながら一点もなく期待外れだった。

 

帰国する7日目早朝に、トレビの泉にコインを投げてから、大統領官邸に使われているクイリナーレ宮の贅沢な室内装飾を見学した。最後はバルベリーニ美術館。ここにもカラヴァッジョを含む17世紀バロックの優れた作品が数多く展示されていた。

 

今回の旅はバロック時代に重点を置いて、1週間で実に11の美術館、博物館と10の教会、礼拝堂を回り、千点近い絵と彫刻を見た。大変な密度の企画だった。これに耐えた参加者の皆さんは健脚である。パスタもピッツァもおいしかったし良く食べたが、帰ってみると体重は増えていなかった。われわれはよほどよく歩いたことになる。美術館で解説してくださった方々と、旅先を熟知し丁寧に引率してくださった近畿日本ツーリストの石光正典さんに大変なお世話になった。感謝したい。