物質(モノ)への挑戦

2012年9月4日2012年12月16日

 

現代美術の特徴のひとつに、物質性へのこだわりがあります。絵具や土など素材の物質感を前面に押し出した作品や、廃材を用いた作品などを展示します。

戦後まもないアメリカに登場し、世界の美術界を席巻した『抽象表現主義』。その代表作家であるジャクソン・ポロックは床の上に拡げたキャンバスの上に絵具を勢いよくはね散らかして描く「ドリッピング」という手法を編み出して、描かれたイメージではなく、撒き散らされた絵具の物質性を前面に押し出された独特の世界を構築し、人々を驚かせました。本展示ではポロックと並ぶドリッピング技法の第一人者、サム・フランシスの「サーキュラー・ブルー」や、ヨーロッパの「アンフォルメル(非定型の意)」運動の一員として活躍した今井俊満の「東方の光」などにより、キャンバスの上に絵具が舞うドリッピング技法の魅力をご紹介いたします。

 アメリカ抽象表現主義と同時代の1950-60年代、ヨーロッパでは上述のアンフォルメル運動が、日本では関西の「具体美術協会」の作家たちが、それぞれ別個に絵具の物質性を押し出した表現を模索していました。アントニ・タピエス(スペイン)の「黒い空間」は絵具に石膏や砂を練り込み、重厚で暗鬱な空間をうまく作り上げています。また。ドロドロの絵具を上から下に向かって流す元永定正の「作品」や、天井から吊るしたロープにぶら下がり、足で絵具を踏み潰しながらダイナミックに描く白髪一雄の「地猛星神火将」等を展示します。こうした「物質としての絵具の追求」の残滓は、版画ながらリチャード・セラの「バック・トゥー・ブラック」や、李禹煥の「点より」「線より」といった作品の中にも見てとることができます。また、戦前から活躍していたわが国における抽象絵画の先駆者である斎藤義重は、合板を電気ドリルで削ることによって、絵画の基底材である木の質感を前面に押し出したユニークな作品を作りました。

 一方、第一次世界大戦後にドイツのダダイスムの作家クルト・シュヴィタスが、路上の紙くずを用いた「gc」のような廃物利用の作品を生み出して以降、廃物や、正規の画材ではない日常の物体をそのまま用いて作品を作り、その異様な物質感で見る人に衝撃を与える作品が次々と生み出されました。段ボールを本物の扉にベタベタと貼り付けたロバート・ラウシェンバーグの「カードバード・ドア」や、ヴァイオリンを切断して木箱にコンクリート詰めにしたアルマンの「ビショップの悲劇」、海綿や小石を用いたイーヴ・クラインの詩的な作品「RE42」、そして産業用フェルトの質感を生かし、重力で変形する物質のゆるやかな緊張感を見る者に体感させるロバート・モリスの「無題」などがその好例です。またマグダレーナ・アバカノヴィッチはごわごわの麻布を樹脂で固めて首の無い人体像を作り、それを幾つも並べることによって、体制によって顔も名前も抹消された、あるいは自らの頭で考えることを封じられた、現代人の姿を見事に造形化しています。麻布の質感が裸体とも着衣ともつかない絶妙な雰囲気をうまく演出しています。

 土をこねて器を作る陶芸作家たちは、昔から土という物質と格闘しながら作品を制作してきました。土を手でぐしゃりと掴んだ跡が焼成した作品にそのまま残る星野曉の「アーチ形の輪郭の中でIV」はこの「土と人間の格闘の過程」をそのまま作品化したような作品です。一方で同じ現代陶芸家である西村陽平は、様々な雑誌を焼いた灰を瓶詰めにして標本箱に並べた作品「時間と記憶」において、知識を伝達する書籍と言えども実はただの物質に過ぎないのだと我々に再確認させるという、哲学的でコンセプチュアル・アート(概念芸術)的な表現を試みています。

 

●現代美術部門

作者名 タイトル 制作年 素材・技法

《物質(モノ)への挑戦》

西村 陽平 時間と記憶 1996年 ガラスケース、ガラス瓶、本、雑誌
クルト・シュヴィタス gc 1924年 コラージュ
アルマン ビショップの悲劇 1974年 切断されたバイオリン、コンクリートを埋め込んだ箱
イーヴ・クライン RE42 1971年 スポンジ、小石、染料、合成樹脂・木
ロバート・ラウシェンバーグ カードバード・ドア 1971年 段ボール
サム・フランシス サーキュラー・ブルー 1953年 油彩・画布
今井 俊満 東方の光 1958年 油彩・画布
元永 定正 作品 1961年 油彩・画布
白髪 一雄 地猛星神火将 1960年 油彩・画布
マグダレーナ・アバカノヴィッチ 群衆IV 1989-90年 黄麻布、樹皮(30体組)
アントニ・タピエス 黒い空間 1960年 油彩・画布
斎藤 義重 作品12 1961年 油彩・合板
ロバ-ト・モリス 無題 1972年 フェルト
リチャード・セラ バック・トゥー・ブラック 1981年 リトグラフ・紙
李 禹煥 線より 1979年 シルクスクリーン・紙
李 禹煥 点より 1979年 シルクスクリーン・紙
星野 曉 アーチ形の輪郭の中でIV 1992年 黒陶