「縦」と「横」

2012年4月3日2012年6月24日

常設展示室2では、戦後日本とアメリカを中心とした美術作品を、約2か月ごとに展示替えを行いながら紹介しています。今回は「《縦》と《横》」と題して、造形作品にとって最も基本的でシンプルな造形要素である、直角に交差する水平と垂直の線、縦横方向への動きや拡がり、矩形(長方形)や立方体などによって形作られた作品群を紹介し、その意味を探ることにいたします。

【造形の基本要素】

抽象絵画の先駆者のひとり、オランダのピエト・モンドリアンは1920年代に、「絵画にとって最も純粋で基本的な要素は何か」を探求し、赤青黄の3原色と垂直・水平の線で形作られたシンプルな抽象絵画を確立しました。そしてカール・アンドレや桑山忠明(くわやま・ただあき)ら、1960年代後半に現れたミニマル・アート(最小限芸術)の作家たちも、芸術にとっての最小限要素を探求し、正方形を基本にそれぞれの作品を構成しました。またアド・ラインハートは無機的な正方形を基本とすることで、感情を極度に抑制した寡黙で瞑想的な作品を生み出しました。

【基本単位と規則性】

正方形や立方体は、ユニットとして反復されることで作品の基本要素となります。碁盤の目のような山田正亮(やまだ・まさあき)の作品や、立方体を規則正しく組み合わせたソル・ルウィットの作品がその典型です。またドナルド・ジャッドは数学でいうフィボナッチ数列(隣り合う二つの数の和が次の数と等しくなる数列)に基づいて基本単位の立方体を組み合わせ、ユニークな作品を作りました。

【拡がり】

アメリカの大自然を思わせる巨大な色面絵画を描くクリフォード・スティルは、作中の模様を縦方向に延々と延びるように描くことで、画面に果てしない拡がりを与えています。同じくバーネット・ニューマンの作品は、画面を垂直に貫き、時に作品を左右対称に仕切る「ジップ」と呼ばれる縦の線を基本にすることで、広大な色面に真正面から向き合っているような錯覚を鑑賞者に与えます。リチャード・セラの作品は壁と床を仕切る線に貼り付くことで、展示室の空間をそのまま作品に取り込んでいます。

【重力】

地球上の物体はみな、鉛直方向、つまり下方に向かって落下します。薄く溶いた絵具を流し掛けしたモーリス・ルイスの作品、ドロドロに溶いた絵具をゆっくり垂れ流した元永定正(もとなが・さだまさ)の作品はいずれも、縦方向の絵具の流れが偶然と計算が混在する不思議な模様を作り出しています。

【運動】

空を飛ぶ鳥のイメージを、縦方向に延びる金色の流線型で表したコンスタンティン・ブランクーシの「空間の鳥」は、重力の束縛を離れて無限の虚空に向かう上昇感覚を見事に造形化しています。また絵具を横方向に延々とスタンプして作られた李禹煥(リー・ウーファン)の「点より」には、作者が作品を制作した際の時間と動きがそのまま封じ込められています。

【グリッド(格子)】

縦と横の線に沿って区切られた格子模様と、反復されながら連続するイメージは、時に出店久夫(でみせ・ひさお)の作品のようなこの世ならぬ異次元的な世界を生み出します。またブラウン管の拡大図を思わせる加納光於(かのう・みつお)の作品、格子状に並んだ模様が千差万別の変化を見せる一圓達夫(いちえん・たつお)やオノサト・トシノブの作品も、秩序と変化の組み合わせがユニークな効果を上げています。

●現代美術部門

作者名 タイトル 制作年 素材・技法

《「縦」と「横」》

バーネット・ニューマン カントIV 1964 リトグラフ・紙
バーネット・ニューマン 無題 1969 エッチング・紙
バーネット・ニューマン 無題 1966 シルクスクリーン・紙(木、アクリル板)
アド・ラインハート 無題(10点組) 1966 シルクスクリーン・紙
アド・ラインハート トリプティック 1960 油彩・画布
クリフォード・スティル PH-386 1955 油彩・画布
ソル・ルウィット ストラクチャー(正方形として1,2,3,4,5) 1978-80 木製、白塗り
カ-ル・アンドレ Zinc-Zinc Plain 1969 亜鉛版、36枚組
ドナルド・ジャド 無題 1977 アルミニウム、鉄
リチャード・セラ 床に立つ横長の長方形 1981 ペイントスティック・アルミニウム
桑山 忠明 無題 1965 アクリル・画布
桑山 忠明 無題 1975 メタリック・ペイント・画布
山田 正亮 Work D-274 1978 油彩・画布
山田 正亮 Work D-305 1978 油彩・画布
モーリス・ルイス ダレット・ぺー 1959 アクリル・画布
元永 定正 作品 1960 油彩・画布
コンスタンティン・ブランクーシ 空間の鳥 1926(1982年再鋳造) 本体:ブロンズ 台座:大理石・石
李 禹煥 点より 1976 岩彩・画布
出店 久夫 私風景’89-Amarillo y Rojo 1989 ミクストメディア
加納 光於 (Phyllosoma)g-Ⅱ 2003 カラーインタリオ・紙
一圓 達夫 Work 10 1978 木版・紙
オノサト・トシノブ Silk-10 1967 シルクスクリーン・紙